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浸水リスクを確認しよう
地球温暖化の影響か、河川の堤防決壊や内水氾濫による水害が近年多発している。一方、「避難場所」とされる施設が実は水災リスクの高い場所にあったという事例も釜石市や常総市などで散見される。
自宅やよく行く商業施設、「避難場所」などの水災リスクを事前に把握し、いざというときの避難行動を検討しておくことが非常に重要となっている。
そういう時に頼りとなるのがハザードマップで、官民合わせていくつか存在しているが、ここでは政府系のものを 2 つ取り上げ、それらを組み合わせた活用法を紹介する。なお、これらのうち後者は河川の氾濫が対象となっており、内水氾濫に関しては前者を参照すること(ただし、線状降水帯による内水氾濫の発生地点は近年増加しつつあり、ハザードマップの想定が追い付いていない可能性があることには注意)。
水災リスクを参照できる 2 つの政府系サイト
「重ねるハザードマップ」〜 シームレスなオンラインハザードマップ
自治体などが公表しているハザードマップだが、常総市のように「PDF で公開されているが、全市で 1 枚となっているせいかあまり高精細ではなく、拡大しても細かいところが判らない」という例や、逆に「区域をいくつかに分けて PDF 化されているためある程度細かい部分もわかる一方で希望の地点がどの PDF にあるのかわかりづらかったり PDF の境目の近くが見辛い」という自治体もある。
そんな時に役立つハザードマップはいくつかあるが、本ページでは国土地理院の「重ねるハザードマップ」(https://disaportal.gsi.go.jp/hazardmap/maps/index.html)を採り上げる。
参照可能な水災リスクの情報は洪水や排水氾濫の最大浸水深だが、一般的な自治体のハザードマップと同様に「なし」・「0.5m 以下」(床下浸水相当?)・「3.0m 以下」(1 階完全水没)・「5.0m 以下」(2 階完全水没)・「10m 以下」「20m 以下」「20m 超」と刻みが荒いのが欠点。一方、自治体作成の PDF とは異なり自治体の境界に関係なく表示される、ある程度大縮尺でも見ることができる、地形分類も見ることができる(例えば「周囲に比べて浸水リスクが低いのは自然堤防上であるから」といったことが判る)、といった利点がある。
以前はもっと細かく最大浸水深を知ることができたのだが、2025 年 3 月頃にその機能がなくなってしまった……。
「浸水ナビ」〜 河川の氾濫による浸水深を高精度で表示
上記の通り、自治体等が公開しているハザードマップは非常に刻みが荒い。「建物に対して想定される最大の被害」を知りたいのであればそれでもいいのだが、実際には最大浸水深は「浸水リスクの大きさ」とも連動しているので、同じランクに分類されていても「0.6m」であるか「2.9m」であるかはかなり異なる。
そこで参考になるのが、国土交通省の「浸水ナビ」(https://suiboumap.gsi.go.jp/)。
代表的な河川が中心ではあるが(対象河川はサイト内に一覧表がある)、各河川で複数の破堤点を設定し、そこから洪水が発生した場合の浸水の進行状況や最大浸水深のシミュレーション結果を見ることができる。
さらに、逆に浸水深を知りたい地点を指定することで、上記のシミュレーション結果からその地点での最大浸水深が最も大きくなる破堤点を算出し、そこから発生した洪水の最大浸水深を知ることができる。
実は、2025 年 3 月まで「重ねるハザードマップ」で見ることができた最大浸水深はこの「浸水ナビ」が元ネタだったようなのだが、浸水ナビ側の仕様変更により連動できなくなったということらしい。なので、ハザードマップよりも高い精度で最大浸水深を知りたい場合は、浸水ナビで直接調べる必要がある。
注意点としては、あくまでも河川の氾濫のシミュレーション結果を公開しているサイトであって、最近都市部を中心に多発している内水氾濫には対応していないという点。都市部では首都直下地震などの巨大災害で堤防が破壊された場合の参考になるものの、このサイトが本領を発揮するのは内水氾濫の心配があまりない郊外〜地方部になりそう。
実際の確認手順
最大浸水深を知りたいなら浸水ナビだけで良さそうにも思えるが、ハザードマップとは異なり「指定した破堤点からの浸水状況」もしくは「指定地点での最大浸水深」を表示するという性格から、「シミュレーション結果がない」という表示が出た際、ぎりぎりで水が来ないだけなのか、そもそも浸水の心配がない場所なのか、どちらなのかがわからない。さらに、内水氾濫の危険性があってもわからない。
そこで、以下のようにするとよい。
- 「重ねるハザードマップ」で広域的な概要を見る
- この時点で目的の地点が「真っ白」であれば、ほぼ心配なし。ただし、周辺よりやや低くなっている場所では内水氾濫に注意。そのあたりは標高表示(0.1m 単位)で確認できるほか「地形分類」で類推できる場合もある。
- 「浸水ナビ」で具体的な最大浸水深を見る
- 田んぼの中の住宅などでは「敷地の中で母屋だけ盛り土の上に立っている」というケースもあるが、「浸水ナビ」には反映されていない模様。一方、敷地自体に高低差がある場合は反映されている。おそらく、土地の起伏が標高として国土数値情報に反映されているか否かによるのでは?
「重ねるハザードマップ」で概要を見る
こちらの操作は割と簡単。ただし、文字(数値)で情報を表示するには一手間必要(最低一度は「地形分類」を選択する必要あり)。
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- 以前に「重ねるハザードマップ」を開いたことがある場合、その時の位置や拡大率が初期状態になっている。
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- 海が近い地域の場合、必要に応じて「高潮」や「津波」を選択するのもよい。少なくとも、「地形分類」を一度は選択してやらないと、ウィンドウ下部の情報領域が表示されないので注意。
- ちなみに、東京 23 区に関しては、高波の浸水深は表示されるものの、津波の浸水想定が表示されない(情報領域には「範囲外または未整備」と表示される)。お隣の千葉県浦安市・市川市や神奈川県川崎市・横浜市には津波浸水想定があるのに(しかも、浦安市は海沿いよりも旧江戸川沿いに広がっている)。そのくせ、月島やお台場・新橋・品川周辺と大田区に津波避難場所が設定されている。どう考えても「津波の想定なし」ってのはおかしいよなぁ……。
- 不要なら、情報領域が表示された後に「地形分類」を再度クリックして非選択状態にしてもよい。
- 一度表示された情報領域は、自分で畳まない限り消えない。ただし、一度情報領域を畳んでしまうと再度「地形分類」をクリックしても開かれなくなるので、もう一度情報領域を開きたい場合は「重ねるハザードマップ」ごと開きなおす必要がある。
- 地図の表示倍率により表示可能な災害種別が異なるので1)、拡大・縮小したり、透過率を調整したりしていろいろな情報を確認する。
- 情報領域のタブを切り替えると、それぞれの情報を数値で見ることができる。
- なお、「地形から分かる災害リスク」タブは、なぜか情報が正しく表示されない。「地形分類」の色分けの意味は「解説 凡例」ボタンを押して表示されるサブペインの「凡例」リンクをクリックすると別のブラウザタブやウィンドウで表示されるのだが、種類によっては色味が判りづらいので、ここに分類が文字列で表示されればいいのだけど。
- 数値が表示された状態で地図を動かすと、情報領域にはそれに連動して新たな十字カーソル地点のデータが表示される。周辺との標高差を調べたり、そのまま引き続き別の地点の災害リスクを確認することが可能。
「浸水ナビ」で最大浸水深を見る
「重ねるハザードマップ」で概況を確認して洪水のリスクがありそうであれば、「浸水ナビ」で詳細な最大浸水深を調べる。
「浸水ナビ」では、以下の 2 種類のシミュレーション結果を見ることができる。
- シミュレーションの起点となっている破堤点を選択し、そこで発生した浸水の進行状況を確認する
- 洪水の影響を確認したい地点を指定し、そこに影響を与えるシミュレーション結果の中から最も浸水深が大きくなる破堤点を選択して、最大浸水深と時間の経過に伴う浸水深の変化を確認する
このページでは、上記の 2. の手順を紹介する。
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- 以前に「浸水ナビ」を開いたことがある場合、初期状態ではその地点の地図が表示される。
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- 全ての破堤点が地図上に表示されてから 10 秒程度過ぎると、なぜか地点を指定した時の状態に地図が勝手に変化してしまう。そのため、破堤点の一覧が広域に亘っていると、赤いマークの場所を選んでいるうちに地図が勝手に移動してしまうことになるので、すぐに破堤点をクリックできないようなら地図が変化するまでしばらく待つのがよさそう。
「浸水ナビ」では、指定した地点の予想最大浸水深をピンポイントで知ることができる一方、ぎりぎりで水が来るか来ないかといった地点では、指定する場所がちょっとずれてしまうと「シミュレーション結果がない」旨の表示となってしまい、周辺の状況を含めて表示がなされない。そのため、「水が来ないとされている場所であっても、近くまでどのように水が来るかを確認したい」という場合、「重ねるハザードマップ」で近くの浸水予想エリアを確認しておき、「浸水ナビ」ではわざとずらしてそれらの地点を指定するといった工夫が必要となる。